社外取締役 × 社長 鼎談
日進工具はどんな会社ですか?
1954年の創業以来、60年にわたって創業家である後藤家が経営を担ってきた日進工具は、現在も五代目の後藤弘治社長をはじめとする4名の役員(執行役員含む)が創業家親族というオーナー系企業である。しかし、ガバナンス強化に取り組む経営陣は、2016年より取締役の37.5%にあたる3名の社外取締役を招聘。また同様に女性取締役も2名とするなど、ダイバーシティ推進や外部意見を積極的に取り入れながら、オープンで透明性の高い経営を実現させている。
社外取締役 藤崎 直子
- 1968年4月
- 株式会社住友銀行(現株式会社三井住友銀行)入行
- 1977年10月
- 株式会社日本マイクロニクス入社
- 2000年12月
- 同社取締役経理部長
- 2010年10月
- 同社専務取締役 企画管理本部長
- 2016年6月
- 社外取締役(監査等委員)(現任)
社外取締役 平賀 敏秋
- 1999年4月
- 弁護士登録(東京弁護士会)
- 2007年10月
- 北村・平賀法律事務所 設立
パートナー(現任) - 2009年3月
- 株式会社MS&Consulting社外監査役
- 2014年4月
- ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 社外取締役(現任)
- 2016年6月
- 社外取締役(監査等委員)(現任)
- 2016年6月
- ヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス株式会社 社外監査役(現任)
代表取締役社長 後藤 弘治
専門的知見を持つ二人の社外取締役
後藤: お二人には2016年6月から当社の社外取締役を担っていただいています。まずは当初、引き受けていただいた理由をお話いただけますか?
藤崎: 私は、製造系上場企業で財務や人事を中心に管理部門を担当してきました。日進工具の常務からお声がけいただいたのですが、「Made in Japan」に徹底的にこだわり、少人数ながら高収益を上げている「とてもがんばっている会社」との印象から興味を抱き、お引き受けさせてもらいました。
藤崎 直子
平賀: 私は、証券会社の方よりご紹介いただき、お引き受けさせていただきました。弁護士として会社法や金融商品取引法などの観点から、皆さんが見逃している点を適宜意見させていただいています。当初は「エンドミル」と「ドリル」の区別もつかなかったほどですが、日本の製造業を支えているという事実に、とても共感しています。
後藤: お二人からは、それぞれ異なる分野から専門性の高い知見で、いつも貴重なご意見をいただいています。これまでの日進工具にある常識というのは、実は世間一般の常識ではないかもしれない。そうしたとき、藤崎さんの製造業での知見でお話をお伺いすると「そういう考えもあるんだな」と気づかされたり、平賀先生からアドバイスをいただき、もっと広い視野を持つべきだと考えさせられることが多々あります。
平賀: 私は、日進工具の、一生懸命に真面目に仕事をされているというところに、とても好感を持っているんです。
藤崎: それは私も感じていて、この少ない人数でこれだけの利益を上げていることに感心しています。ただ、もっと余裕を持ってやっていけたらいいのに、と思うところもありますね。
平賀: 確かに、社員の方々とのコミュニケーションなども、もっともっとたくさん取れるような余裕があるといいのかな、という気がしています。
さらなる成長の鍵は「人材」にあり
藤崎: 皆さんが多忙過ぎると、どうしてもポジションが固定されてしまいがちで、マルチな人間が育ちにくくなってしまう。それは企業の将来にとって危険信号なんです。だから、可能な限り、女性でも男性でもどんどん活躍できるように“場”を与えるべき。そのポジションにふさわしい人材がいるかどうかではなく、場を与えてあげる。立場が人を育てることもありますから。そういう余裕も必要です。
後藤: 製造業は特にそうですが、この先10年ほどで、シニア世代の経験豊かな方々がごそっと引退されます。優秀な人材の確保と育成は、重要な企業戦略のひとつです。
平賀: 役員についても同じです。日進工具には常勤で長く取締役を務められている方がいて、社内の皆さんとのコミュニケーションがしっかり取れている。外部の我々としても安心して見ていられます。ただ、そういう人に代わる人材が育っているか、ということは課題です。
平賀 敏秋
藤崎: 一般的に監査等委員に常勤を置く必要はありませんが、そういう方の存在は日進工具の特色でもあり、とてもうまく機能していますね。社内のことを熟知されていて、私たち外部の人間に対しても的確に説明していただける。
平賀: 過去の経緯や背景もお伺いできるので、本当に助かっています。おかげで、我々もしっかりと日進工具のことを理解した上で、発言させていただくことができています。
次の時代に向けた課題
後藤: 経営やガバナンスの現状について、ご意見をいただけますか?
平賀: 会社法上の取締役人数を減らし、執行役員制度を導入し、執行役員が取締役会に参加する体制に変更したのは有効だったと思います。すべての参加者が開かれた取締役会でしっかり議論することは、次世代の経営陣育成という意味でも重要です。 ただ、人材育成という意味も含め、そろそろ新しいメンバーを加えてもいい時期かもしれませんね。
後藤: そうですね。経験が大切だし、取締役会でどんなことを話し合っているのかも、ぜひ知っておいてもらえるといい。後継者も含め、将来の体制について、そろそろ方針を出すべき時期に差し掛かっているとは思っています。できれば複数の候補者を選び、それぞれに経験を積ませるというのが理想です。
藤崎: この数年間、2部上場、1部上場とスピード感を持ってやってきました。ここで、ちょっと足元をさらに固めるというか、あらためて周りを見渡してもいいかもしれませんね。
後藤: 我々は日本の製造業がどうやったら伸びるのかを真剣に考えています。それはもちろんこれからも突き詰めていきますが、これまでマーケットばかり見てきましたので、内部のことは後回しにしてきた感が否めません。そこは短期的・中期的な課題だと認識しています。
オーナー系企業だからこその安心感
後藤: 当社はオーナー系企業という特徴がありますが、この点についてはどうお考えですか?
平賀: 確かに、経営陣にオーナー一族の方が多いのですが、実際に社外取締役として見たとき正直、カリスマ経営者によるオーナー系企業のマイナス印象はまったくありません。むしろ、親族がしっかりと事業を守っていて、継続性という意味で投資家の皆さんも安心感を覚えられている。それは、日進工具の強みになっていると思います。
後藤: オーナー系企業のデメリットは、独断的に経営を進めているのではないかという見方をされることだと思います。当社はそれとは違いますし、きちんと多方面の独立した方々に参画いただきながら、いろいろと見ていただき、ご意見を参考にしながら経営しています。そういうところは、社内外にご理解いただくべく、積極的に発信していかないといけないと考えています。
後藤 弘治
藤崎: 社長がしっかりとリーダーシップを発揮されている一方で、本当に独断専行がない。内部から見させていただいて、私はこの会社がとても好きになりました。これからの成長もとても楽しみにしています。
平賀: 楽しみですよね。それに本当にいい会社。もっといろいろな人たちに入ってきてほしいと思います。特に若い人たちに、この会社の良さを知ってもらう必要がありますね。
後藤: そうですね。人材の質が上がらなければ、会社の未来につながっていきません。専門性が高い事業ですから、育成がとても重要なんです。
平賀: 日進工具の良さは、なんと言っても真面目にものづくりをしているところ。そして、市場を自分たちで開拓してきていて、だからこそ専業という強い立場をつくれている。そういうところを知ってもらいたいですね。
後藤: うちの営業スタッフたちは、専業でそこだけを集中して勉強しているので、お客様の技術を超えていることもあります。プロフェッショナルとしてお客様に頼られるというのは、大きなやりがいにもつながっていると思います。
藤崎: 社員の皆さんと接しているとわかります。そういう日本のモノづくりを支えているという自負が、「この会社に入ってよかった」と思わせているんですね、きっと。
次なる日進工具のために必要なもの
藤崎: 日進工具は、超硬小径エンドミルでトップの企業です。ただ、追いかけてくる企業も多いですし、何か別の、新しい柱が今後必要なのかなとも思います。
後藤: 当社がこれまで勝ち残ってきた強みをしっかり認識して継続するとともに、マーケットを創る努力を続ける。それがまず大切だと考えています。その上で、並行しながら新しい柱を育てていく。
平賀: 今のポジションを築けた強みを弱めることは確かに危険ですね。強みを継続していくという考えは、私も同意見です。その上で、日進工具がエンドミル製造で培った技術があれば、他にもさまざまなモノを創造できる可能性がありそうです。
藤崎: 種は確かにあります。それを育てる余裕があるか、ということでしょうか。
後藤: 余裕=優れた人材を育てられるか、ということですね。
藤崎: 社員や株主の皆さんなど、ステークホルダーと一緒に夢を持てるかというところが大切です。そのために、これからも言わせていただきます!
平賀: 私も、申し上げられることは今後もはっきりと意見させていただきます。納得のいくまで質問もさせていただきますよ。
後藤: ぜひ、よろしくお願いします。
(2019年3月取材)