“未来の部品を開発する”という仕事
株式会社入曽精密 代表取締役社長 斎藤清和 様
日進工具株式会社 代表取締役社長 後藤弘治
世界最高レベルのモノづくりに挑み続ける入曽精密と、その挑戦に世界最小レベルの小径エンドミル製造技術で応える日進工具。日本のモノづくりを支える両社社長が、50年先を見据えて語り合う。
株式会社 入曽精密
1971年創業/埼玉県入間市/従業員14名
最新鋭マシニングセンターや3次元CAD/CAMを駆使して、他社が真似できない精密切削技術でモノづくりを切り拓く、“世界を支える日本の中小企業”の1社。同社が開発した「ORIGAMI」は、微細加工分野において、これまで人の手で行っていた加工段階での部品持ち替えをロボットで行うことにより、精度のばらつきを防ぎ、不可能だった加工を実現する。
ORIGAMI
未来の可能性を切り拓く工具
斎藤: 1983年に私が親父の会社に入った頃はものすごい不景気で、まず最初に、この中小企業が生き残るためにはどうすればいいかのか、ということを考えました。そして導き出したのが、最高の腕を持つ日本一の技術屋になるということ。入社して一週間目くらいにそう決めたらスイッチが入て、朝6時から夜2時まで、納得するまで仕事に没頭するようになりました。
後藤: 集中力が半端ないですね。
斎藤: 土曜日から仕事を初めて月曜日になっていたなんてこともざらでした(笑)。その頃にやっていたのは、“未来の部品を開発する”という仕事。お客様から「斎藤さん、1年先の研究だけどできるか?」と聞かれて、こういうチャレンジをしなきゃダメだと思いました。
後藤: 微細加工もそうですが、今できないことをできるようにすることが我々の仕事だと思うんです。当社は、これからの世の中はいろいろなものが小さくなるだろうと、その工具となる小径エンドミルに特化しました。
斎藤: 実は、その「未来の部品」をつくることができたのは、日進工具のエンドミルがあったからです。私らは、その仕事をやれるかどうかを判断するときに、工具がなかったら作れないので、まずそれがあるかどうかを確認する。そうしたらあったんですよ、日進工具に。まだ誰も知らなかった製品でしたけど。
後藤: 製品ラインナップとして、ないものはない状態にしておくことが工具メーカーとしてのプライドだと思っています。小さすぎて誰がこんなものを使うんだ、というレベルで構わない。それがなかったら、皆さんが挑戦しようというときに、先の道が絶たれてしまいますから。
芸術は誰もやったことがないから価値がある!
後藤: アルミのバラは、まさか削り出しだとは誰も思わないですよね。素人さんには、くっつけてつくったようにしか見えない。
斎藤: あれをつくった当時、トヨタ自動車の常務だった方から、アルミじゃなくて青い素材で作れと言われてね。そこで青い樹脂で一番きれいなのがMCナイロンだったので、それでいいかと聞いたら、それでいいと。「きたな」と思いました。本当にすごい技術なら違う素材でも作ってみろという意味です。柔らかいものはとても削りにくいから、相当切れの良い状態の刃物で、加工条件と回転数を狙いをつけてやらないといけない。
削り出しのバラ(アルミ)
後藤: スピードを速めるとインパクトが大きくなって、柔らかいものほど壊れてしまいますからね。削り方はご自身で?
斎藤: もちろん! すべて瞬間的に考えます。だいたい30分考えてできないものは、結局ほとんどできない(笑)。
後藤: 芸術の世界ですね。たぶん、コンピュータに芸術を作れと言ってもできない。それは、誰かの模倣でしかありませんから。かなりうまくできるでしょうが、芸術は誰もやっていないことだから価値があります。
斎藤: 本田宗一郎さんは、世界一の加工屋、技術屋と付き合えと言った。世界一を知ることで、ものを見る目ができる。F1も、どんどん新しい技術が生まれ、そして劣化していくことを目の当たりにする現場。私は「不易流行」という言葉が好きで、守るべきものと、変わらなければいけないものがあると思っています。チャレンジはし続けなければいけない。失敗してもいい。それが糧になるようなプロジェクトに、一流の仲間と挑むことが大切だと思うんです。
50年先を見据えて「日本のモノづくり」を考えたい
斎藤: 日本のモノづくりの特徴は、丁寧できめ細やかで、連携力があるところ。欧米はイエス/ノーがはっきりしているけど、日本はイエスとノーの間に中間の返事がたくさんあって、生まれた時からそれを読み取る練習をしているから、腕のいい技術者は「図面を見る」じゃなくて「図面を読む」。設計者の意向を読み取るんです。
後藤: 設計をわかっていて、ここは本当に大事なところだということをお互いにわかっていると失敗がないし、答えにいち早く到達できる。図面で会話できるということですね。
斎藤: それは長所でもあるし、短所でもあります。長所としては、常にもっと良いものをと、設計者と加工者が刺激し合って、製品が技術向上のスパイラルに入っていけます。短所としては、標準化がしにくいところ。だから近年のモノづくりだと、そんなに頑張らなくてもいい、1流ではなく1.5流で十分だと言って、効率化だけを目指すようになる。だけど、長い歴史を見れば、そういう短絡的なものは必ずダメになります。効率化なんて劣化するんです。
後藤: 日進工具のモノづくりは「自動」ではなく「自働」です。そこには、必ず人がいないといけないと。ただ自動化するだけでは、新しいものは生まれませんから。誰よりもこの製品が愛されるように人がつくったものは、実は価格ではないところで勝負できるので、生き残れる可能性があると思うんです。
斎藤: そういう無形資産が日進工具さんを成長させてきたんだと思います。
後藤: いい仕事をして、利益を出せる会社であるためには、優れた技術を持ち、まだ世の中にないいろいろなものを先につくっていかなければいけない。
斎藤: 大切だとわかっていても、グローバル化という名のもとに、効率化のために、そういうものを捨ててしまった日本企業も多い。私たちは、50年後のための選択をしなければいけないと思うんです。
株式会社入曽精密 代表取締役社長 斎藤 清和 様
無限大に広がる微細加工の未来
斎藤: 50年先を考えると、今はまだ特別だと言われるような技術がもっと裾野を広くしていくでしょう。今まで山の頂上に登れるような技術者しかできなかったことが大学生や子どもでもできるようになったら、突拍子もないアイディアが実現する。
後藤: 突拍子もないものを考えつく人に出てきてほしいですね。
斎藤: 日進工具さんが素晴らしいと思うのは、プロではなく、子どもの絵の発想を大事にしているところです。
後藤: 昔描いた夢のようなものが、意外とまだ製品化されていない。それは、技術的にできないものかもしれませんが、そういう自由な発想に立たなければ、決して新しいものは生まれないと思うんです。
斎藤: そこに形成物がある限り、切削加工という分野はなくならない。そして、技術の高度化とは密度を上げることであり、それは加工技術の密度を上げるということ。最終的には、細胞レベルまでいくでしょう。微細加工の可能性は、まだまだ無限ですよ。
後藤: モノづくりに携わる者として、これからもクリエイト力を強くしていきたいと思います。世の中がリアルなものを必要とする限りは、切削加工技術はなくなりません。当社は、小径エンドミルで勝負してきましたが、このマーケットをさらに伸ばすとともに、新しいマーケットを育てることも含めて、積極的に挑戦していきたいですね。我々も斎藤さんのように、何が本当に大切で何が要らないのかをしっかり見極めていきたい。当社もまだまだ成長できると思っています。
斎藤: 製造技術を土台に、製造業のためになり、自分たちのためになることに挑んで……。
後藤: そして一番になる!
斎藤: そう。それをきちんと世の中に伝えて、実現させていきたいですね。
(2019年3月取材)